〜その2 |
前回に引き続き、仏道とセロトニン神経の関わりを記す本文を要約したいと思います。
今回は、坐禅や読経が、いかにセロトニン神経活性化に影響を及ぼすかを詳しく考察されております。
その前にまず、釈尊が心の三原色と呼ばれるノルアドレナリン神経、ドーパミン神経、セレトニン神経について、二千五百年も前に体験的に調べつくしていたという検証を示されます。
◆ノルアドレナリン神経―ストレスや不安に関連するこの神経に関しては、苦行、荒行を行ずる事によって、脳と身体の関係を調べ尽くしていた。ノルアドレナリン神経は、脳内の危機管理センターの役割があることから、その働きを見極め鍛える事で、心の問題の解決を試みたとみられる。
◆ドーパミン神経―苦行では、自己の求める境地に達する事は出来ない。と判断した釈尊は菩提樹の下、七日間の瞑想、呼吸法を実践、その間、魔王が妖艶な娘を差し向け釈尊を誘惑にかかる話がある。誘惑はつまり快の神経ドーパミン神経の刺激で、普通の人であれば本能的欲求に従うところだが、呼吸法によりセロトニン神経が活性化され、ドーパミン神経を抑制できる事で、無理なく抑制できたと思われる。とあります。
次に、丹田呼吸や、読経が及ぼすセロトニン神経活性化の科学的裏付けとして、まず、三十年ほど前の動物実験による研究結果として、動物に様々なストレスを与え続けた例が報告されております。覚醒時に持続的なインパルス発射をしているセロトニン神経ですが、そこにストレスを与えると、セロトニン神経には全く影響はなく、危機管理センターのノルアドレナリン神経が、的確に反応している事が判明、試行錯誤の実験の結果、実際インパルス発射を変えるのは、種々のリズム運動である事が判ります。これにより、基本的生命活動である呼吸、歩行、咀嚼等が、セロトニン神経のインパルス発射を増強させる事が明らかとなります。この動物実験を踏まえて、人間の尿のセロトニン変動を調べ上げたのが、今回報告された有田教授のグループによるものだそうです。
研究結果としてまず挙げられるのが、坐禅の呼吸法、自転車こぎ、階段昇降、ガム咀嚼、読経によるセロトニンレベルの確実な増加が認められる。また、注目すべきはセロトニン神経が活性化された場合、大脳の活動、姿勢筋、痛み、自律神経など、様々な生理機能に影響を与えているという事、その中でも特に大脳皮質の活動に影響を与える事実が明らかとなります。
ところで、坐禅と脳波の研究では、平井富雄教授の研究結果が広く知られています。
坐禅をすると、脳波の波形にα波が現れる事が実験で明らかとなっておりますが、このα波は、実は二種類あると言われ、目を閉じる事により現れるα波は、やがてθ波、δ波と移行し睡眠に至る流れがあり、一方坐禅によるα波は、意識レベルで見ても、眠気とは逆に爽快感であり、クールな覚醒と認められ、こちらは速いα波と呼び区別します。また、発生の仕方も、前者が目を閉じた直後に発生するのに対して、後者は丹田呼吸をし始めて4.5分からはじまり、その頻度と持続時間も次第に増強すると言います。この時、覚醒の証拠となるβ波が確実に残っている事を見ても、坐禅のとき、覚醒状態でありながら大脳の理性や知性に関わる部分が抑制されている事が判ります。この覚醒しつつ、理知を積極的に抑え込まれる状況が、所謂、「大愚」や「無分別」に当たるのではないかと言及されます。「理性や知性による判断を抑え、外部からの刺激に心を乱さずに受け流せる境地」が、心とは無縁と思える丹田呼吸により得られるところにおもしろさがあるのでしょう。
次に、読経との関係では、被験者を40年以上のキャリアを持つ僧侶に設定し検証を試みたところ、呼吸法的に見れば、やはり坐禅時の呼吸と同じように持続的な腹筋の収縮が見られ、所謂「声を出す丹田呼吸」であると確認。脳波に関しても速いα波が多く見られ、特に韻を踏むお経の時に多く発生する結果が見られた。とあります。
次にその具体的な呼吸の方法が挙げられます。只単に運動として腹筋を使う呼吸をすればそれで良いということではなく、如何に意識を呼吸法に集中できているか否かにかかっていると言います。禅ではこれを、「呼吸になりきる」とその境涯を表す事を付け加えておきましょう。また、ここでは例として「達磨の面壁」を挙げていますが、つまりは視覚的にも聴覚的にも一切の外的阻害要因を排除する環境が大切と言うことでしょう。
坐禅は、調身、調息、調心が三位一体となる事が重要です。つまり、姿勢を整えても(調身)丹田の呼吸をしなければ活性化にはならないし、たとえ、調身、調息まで出来たとしても心が調わなければセロトニン神経の活性化には繋がらないのでしょう。
ところでこの活性化されたセロトニン神経ですが、活性化状態の持続性は、3〜40分の坐禅で、約1〜2時間と言いますので、睡眠時を除く生活時間に照らしてみると、何とも心もとない感は拭えません。只、ここで重要な点が一つ。坐禅(丹田呼吸)を毎日続けることで、セロトニン神経に構造的に変化が起きると言います。
構造的変化は、自己受容体に現れることが判っております。しかして前述の通りセロトニン神経は、覚醒時にインパルス発射を持続的に送り、脳全体に影響を与えるわけですが、実はそれを自己受容体にフィードバッグして受信しているのだそうです。定期的な丹田呼吸を行うことによって、この自己受容体を作る遺伝子のスイッチがオフになり、自己受容体の数が減少する構造的変化が起こる。自己受容体はセロトニン神経のインパルス発射を自己抑制する機能があるためその数が減れば必然的にその抑制も減少し、呼吸法をしていない普段の時にも高いレベルが維持されるようになる。とこの様な論理です。
呼吸法を日課として行えば、まさに明鏡止水の境地、道元禅師の只管打坐の仏法に通じる概念と記されております。
話しは一転して、最後は精進料理との関係にも及びます。
セロトニンは、トリプトファンという物質を材料に作られるそうです。食品では、バナナ、豆類(豆腐や納豆など)、チーズ、鰹節に多く含まれ、それをよりスムーズに取り込むのには、肉類を含まない炭水化物中心の食事が良いとされます。仏教の、況や禅の日常底の行いが、私達の精神活動に、これほどまでに影響があり、理にかなった行いであったことが、今回の研究結果により、真実みを帯びたと言えましょう。
曹洞宗の宗旨は、威儀即仏法、作法是宗旨、行住坐臥すべてにおいて、坐禅が充満することが、結果的に心身の健康につながるようです。
今回の研究により、仏道を科学的に考察し、それが如何に心身の均衡を保つのに影響があるか立証された形となりました。
職業別長寿データによれば、職業別長寿ランキングは、あらゆる職種を抑え、僧侶がトップとの結果が出たそうです。中でも禅宗の僧侶が抜きんでているとの事ですが、その理由もこの結果で裏付けられたと言えましょうか。
中野東禅老師の、「でも坐禅」の例を挙げるまでのこともなく、機縁がなければ出会いはありません。心身の健康や、長寿を考えたきっかけも又良しとして、より多くの方に坐禅に親しんで頂き、段階的に、ご本人自ら本当の意味の仏道に気がついて頂ければこれもまた一つの考え方でしょう。とにかく、こだわりを拭い去り、躊躇せずにはじめの一歩を踏み込んでみることが大切なのでしょう。
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