ご存知『西遊記』に出てくる豚の妖怪と言えば猪八戒(ちょはっかい)でしょう。天の川の水軍を率いる天蓬元帥が不祥事で下界に追放され誤って雌豚の胎内に入って生まれたという設定です。ここで、何で豚なのに猪(ちょ)なのか、実は漢字の本場中国では「猪」と書けばブタを意味するのだそうです。
 さて、このイノシシ、仏教との関連素材?を調べてみると、イノシシを使徒とする天部の仏、摩利支天(まりしてん)があげられます。摩利支とは日と月、つまり太陽や月を意味し転ずるに陽炎・威光に準えられるとの事、『摩利支菩薩陀羅尼経』には「摩利支天を念ずれば人から見られず、捕らえられず害されない」とあります。その様な理由から戦国時代には護身、陰身のご利益があるとされ、武将がその像を肌身に着け合戦に臨んだとされております。最近では大河ドラマ“風林火山”の中で、主人公である山本勘助の念持仏として登場しております。その他、前田利家、上杉謙信、武田信玄、時代下って大石内蔵助など多くの武将が軍神として信仰していたとの事です。
 また、易学で言う丁亥(ひのと・い)年生まれの方は、陽炎のようにつかみ所なく、太陽と月に例えられる両極端な性格?さにあらず、忍耐強く正直で何事にも全身でぶつかりやり遂げる力を持っているとされます。只、気立てが優しく面倒見が良いだけに人にだまされ易いので注意が必要とのことです。ご用心を!
 次に碩学白川静先生のお力をお借りして漢字の中に意味を探ってみたいと思います。「亥」に「木」を組み合わせて「核」となり、物事の中心を意味し、「亥」に「骨」を組み合わせると「骸」となり骨組みとなります。そしてまた「亥は?(がい)なり」とも申します。「亥」は草木が枯れて冬ごもりしている様、「?」は草木の根を意味するとあります。亥年が十二支の締めくくりとなり、子年の始まりを迎えるところから、新たな循環への出発を見据え、根元に十分な栄養を蓄える年とも考えられそうです。ところで、陰陽五行説による干支(えと)とは干と支、つまり十干(じっかん)十二支を見る事で始めてその意味が成り立ちます。正式な干支によれば今年は丁亥(ひのとい)、中国では六十年に一度の特に重要な年として「金亥」と呼ばれるそうです。
 万物を司る陰陽、日と月の意味を合わせ持つ天部の仏、そしてまた威光に満ちた軍神としての守護神。何やら計り知れない猪パワーに圧倒されそうです。
 ただ、力を行使するには自制や忍耐そして正しい方向性が求められる事は昨今の国際情勢をみても明らか、そのような時にこそ、陽炎のように目には見えない存在を思い浮かべ、実は見られている私達の存在を想定することが大切なのかもしれません。摩利支菩薩信仰の功徳は、その起爆的なエネルギーの先を方向付けてくださるところにあるのかもしれません。